鹿の思い出:『毛玉ライフ』 [読み物・作品]

2008年07月01
~~~~~~~~

猫とは、小さくてカワユき者なり。
はふはふの毛玉なり。

窓辺に鎮座ましまして、外を眺むる。
その眼の無垢なることこの上なし。

不意に部屋の虚空を睨み、
何をか捕らえんと欲す。
その瞳にてヒトの見えざる者を見る。

毛繕いに余念なきは猫の嗜み。
小さきベロを懸命に振るい、
時に爪を噛み整える。
毛玉溜まれば吐けば良し。
その心意気や明快。

甘えるにこつと頭をぶつけ、
顎を撫でらるるに喉を鳴らす。
慕うかに思わるれども、
常はそと寄り来るが見もせず。
これぞ美人。

髭のぴょんと伸びたる。、
恐れて耳のへたる。
すぅと寝入る寝顔。時にベロの拝す。
愛くるしいことこの上なし。

食べちゃいたいほどカワユきに、
咥えてみれば唾液に毛の絡まるの難。
真に猫とは、
はふはふの毛玉なり。

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『自分日記帳』 作:岡野陽平 [読み物・作品]

2011年3月、よんすて内部発表会にて発表。
一人芝居。

「 」の中は声を出し、( )は声に出さないで表現。
  ※ケース・バイ・ケースで。 全部読んでもよい。
~~~~~~~~~~~~~~~

■神社。

「明日のセンター試験、上手くいきますように!」
 (目標78%。東アジア大学に一発合格できますように!)
「ふ~。」
 (気分転換に神社まで合格祈願に来てみたけど、来て良かった。
  なんかホッとした。さ、帰ってまた勉強しよ)

「帰ろうとした矢先に、声をかけられました。
 『落としましたよ』と言って渡された手帳に、見覚えはなかったのですが、
 なぜか自分の物だという確かな感覚を覚え、
 受け取ってしまいました」

「あ。ありがとうございます」
■首をかしげる。

(これ、なんだっけ)
■1,2ページ目を開く。

「生まれ、1993年」
 (2月10日 午前3時45分。 
 兵庫県立西宮病院 産婦人科にて 生まれる)
「ナニコレ?」
 (俺と同じ誕生日じゃん。母子手帳?」
「父」 (シンイチ)
「母」 (タカミ)
「え! 俺の!?」
■サッと1ページ目を見るが分からず、カバーを外して表紙を確認する。
 そこには自分の名前が書いてあった。

 (俺の名前。俺のだ。 俺の、母子手帳?)
■数ページ確認する。
 (違う)
「なんだこれ!」
■この手帳には自分の人生のことが事細かに書いてあった。
「6歳。幼稚園の年長。にじ組。
 初恋のサナエ先生が担任。
 子供の無邪気さを武器に、サナエ先生の胸に飛び込むケンタロウ君に嫉妬する」

「おいおーい! 何だこれ!?」

「小学校4年、同じクラスのユミちゃんのことが好きで、
 放課後こっそりユミちゃんの席に座ったり、
 たて笛を吹いたりすると言っていたケンタロウ君に嫉妬する」

「えぇぇ! ・・・やめてよケンタロウ君・・・」

「ていうか、何でこれ、俺の秘密が全部書いてあるんだ!?」
 (誰が書いたんだコレ!?)
 (・・・イヤ、これ、俺の人生が書いてあるんだ・・・なんで、こんなモノが)

■後半のページを開いて。
「2036年・・・!!!」
■恐れてバッと閉じる。
「やばい。これ、全部書いてある」 (全部、未来のことも全部)

■見たいような、見てはいけないような。恐怖。
 (これは一つの誘惑ですね)
「あ、明日のことだけ」 (見よう。) 「明日の」
20110324r2.JPG
「2011年1月・・・センター試験」 (は・・・5教科700点満点で574点。82%!)
「すごいいいじゃーん!」

「あ。世界史が」 (65点は) 「悪いな。」 (特に悪い)
「帰って勉強しよ!」
■急いで帰ろうとするが・・・
 (いや、もうしなくていいのか。未来は決まっているのだから)

「いや~でも」 (574点か~。) 「良いね。うん」
 (頑張ったじゃん俺。これなら国立の本試験も大丈夫そうだな)

■ページを進める。
「あ・・・」
■動揺。不安。慌てて先のページを見る。
「よし!」
 (よかった~。滑り止めのジャパン大学、受かってる。)
「よかった~」

「びっくりさせるなよ。
 ちょっとセンター試験良かったからって、第一志望上げるなよな~」
 (もう、調子乗りすぎなんだよ~。まったく~)

「え、星田佳代子と付き合うの?
 ホシカヨと? マジで!?
 あ、同じ大学に行くんだ~。
え~、俺、ホシカヨと一回もしゃべったことないよ」

「明日試験会場で会うよな。困ったな、え~、どうしよ」

「・・・とりあえずホッカイロ持ってってやろ。」

「『良かったら、使って』。 違うな。『寒いだろ。ほらよ』
 ちょっと冷たいかな。
 クールなのは良くないよな。寒いんだから。ホットにいかなくちゃ。
・・・明日がんばろうな、佳代子。」

「就職・・・よ~し!」
「お~、ホシカヨと結婚かー! 佳代子―!」

「さらに続きを読みました。
 45歳のときに発明した『痛くない鼻毛抜き器』で一財産を築き、
 その後も人生山あり谷あり、
 88歳の米寿のお祝いで12人の孫に囲まれ、
 翌年の正月、喉に餅を詰まらせて死んだときは感無量でした。
 最後まで読みきって、満足して眠りにつきました」

「そして、センター試験当日!」

■寝ている。起きて時計を見る。
「やっべ、え、」 (もう昼じゃん! センター試験、とっくに始まってる!)

「え、何で?」 (574点は?)

「え、浪人? 佳代子とも結婚してないし」

「10年後、アメリカで寿司職人になってる・・・」


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『オリンピック選手の筋トレ』 作:岡野陽平 [読み物・作品]

四次元STAGE 第2回公演で上演した作品の一つ。
2010年10月 作。  一人芝居。
呼吸を乱すための教材として。
         ※上演後の記事→H23.02
~~~~~~~~~~~~~~~~~

■スポーツ選手のトレーニング。
■腕立てをしている。かなり素早く。しかし、丁寧に。本格的に。
「・・・、83、84、85、86、87、88、89、90」
「ラスト10回!」
「91、92、93、94、95、96、97、98、99、200打倒シロチェンコ!」
「はー、はー、ぜはー」
「コーチ、次は何ですか?」
「え? いや、休んでなんかいられませんよ。次やりましょう」
「休んでたら、シロチェンコの奴には勝てません。休んだ分だけ、奴に置いてかれる気がするんです」
「焦ってません。焦ってるんじゃないんです・・・」
「それにコーチのトレーニング・メニューは完璧だから。上半身の次はBODYと下半身ですよね。スピード、スロー、スピード、スローの交互だから、次はスロー・メニューでしょ。今の俺にはスロー・メニューは休みみたいなもんですよ」
「はい。20回と50回を、4セットですね」
■スロー・スクワットを始める。
20110130h.jpg
「1~、2~、3~、4~、オリンピックの舞台で、シロチェンコの奴に。また負けるなんて、絶対に許せない。4年前の北京の、雪辱を果たします。8~。9~」
「この4年間、毎日、奴を倒すことを目標に。ずっとトレーニングしてきたんです、血反吐を吐くような。トレーニングを受けてきたんです、コーチ、あなたからね、13~、14~」
「もうオリンピックは来月です、そう、あと3週間で開幕。俺は楽しみなんです、『ホワイトベアー』シロチェンコの奴に、俺の4年間の特訓の成果をぶつけるのが、ね。徹底した食事管理と科学的な筋力アップ・トレーニングによる、肉体改造! 毎日のドリルによる基礎スキルのアップ! 技の幅を広げて新たな武器も手に入れました~20! キープ! 1、2、3、4、5、6、7、8、9、打倒シロチェンコ!」
「はー、はー、ぷはー」
■やや休憩。次への構え。
「はー、はー」
「はい、50回」
■腹筋を始める。素早く、左右に捻りを入れて本格的に。
「・・・、10、・・・」
■コーチ以外にもう一人、アシスタントコーチが慌ててやってきた。
■二人のひそひそ話を気にしながら。
「・・・21、22、・・・30」
■二人の会話が終わり、コーチが戻ってくる。
「何かあったんすか?」
「え!!? シロチェンコが怪我!? アキレス腱断裂って・・・マジすか!?・・・ホワイトベアーの牙が折れた・・・」
「・・・。そりゃそうでしょうけど、オリンピックどころか、シロチェンコ、年齢から言って、引退じゃないですか? そんな・・・」
「シロチェンコの奴。この4年間、どんなトレーニングをしてたんでしょうかね。俺が強くなったように、きっと奴もさらに強くなってたはず。でも、それでも、俺が勝つ。オリンピックの舞台で、4年前とは反対の結果を! オリンピックの舞台で、もう一度シロチェンコと戦って、打ち破るのが俺の夢だったんだ!」
「なんて、言うと思いましたか?」
■再び腹筋を再開。ハイペースに。
「31、32、・・・40・・・50! 打倒シロチェンコ!」
「あ、つい癖で。・・・まいったな、フィニッシュ変えないと」
「え? 休みませんって。無理してませんって。まだ1セット目ですよ。あと3セット」
■スロー・スクワットを始める。
「1~、2~、3~・・・」
「コーチ。トレーニングはハードですが、コーチに一番鍛えてもらったのは、フィジカルよりもメンタルです。戦いに勝つ、勝者のメンタリティー。・・・勝てばいいんですよ。勝てればいいんですよ、何だって。金メダルさえ手に入れれば。シロチェンコがいなくなれば、俺が金メダルを手にする可能性がグッと高くなる。そうでしょ?・・・オリンピックの決勝でライバルと4年越しの対決。激闘の末に勝利!なんて、そんな漫画みたいな話は浦沢直樹の『YA・WA・RA!』だけで十分です」
「それに、世界には、シロチェンコだけじゃない。手強い奴らが五万といるんだ」
「北京大会で銅メダルだったフランスのボーボワ。4位の、トルコの・・・若手の・・・」
「ベネズエラのヴァスケスや、アフリカ勢も脅威です。ムトンボ。ボル。アジアでは韓国のパク・何とか。中国のワン・ジジ。トルコの、4位の・・・」
「シロチェンコを失ってもウクライナ勢は強い。国を挙げて強化策をとってますからね。きっと、フェセンコが出てきますよ」
「それでも、勝つのは俺です」
「それに、誰が敵かは問題じゃない。いや、それは確かに言いすぎですけど、シロチェンコは強敵でしたけど、・・・もう過去の人間です。他にも、トルコの・・・4位の・・・」
「いや、言いたい事は、最も大事な問題は、いつだって自分との戦いだってことです。自分を鍛えて、前へ進むこと。BESTを尽くすこと。言葉で言うほど簡単じゃないって、俺自身がよく分かってますよ、20!」
「キープ!1、2、3、4、5、6、7、8、9、打倒トルコ人!」
「あ、何だかトルコ人全員を敵に回しそうな言い方しちゃいましたね」
「まぁ、いいか。敵は、デカい程、燃えますからね!」
20110130r.jpg
「とにかく、オリンピックはもう来月なんです。誰が相手だろうと、自分のBESTを尽くすのみです。
世界『知恵の輪』オリンピックで、金メダルを! 俺の流星のような指技で、必ず『知恵の輪』の世界チャンピオンになってみせます。」
「そのために、黙々と特訓を続けるだけです」
■腹筋を始める。2セット目。
「1、2、3、4、5~」
■暗転。
「うあ!!痛っ!・・・っ!  足攣った、足攣った」


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『小さな村の郵便屋さん』 作:岡野陽平 [読み物・作品]

四次元STAGE 第2回公演で上演した作品の一つ。
2010年10月 作。  二人芝居。
   ※上演後の記事→H23.02
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登場=郵便屋(ケビン)、レイルさん
  ※【SE】=効果音

20110130c-b1d0d.jpg
■郵便屋の一人語り。
郵便屋「ボクはこの村のポストマン。この村の誰かが出す手紙は全部ボクが都会の本局まで運びます。この村の誰かに届く手紙は全部ボクが持ってくるんです。おばあちゃんが孫娘に出す手紙も、出稼ぎのお父さんが家族に送った手紙も。お届けします、あなたの想いを。それがボクの仕事です!」
■暗転。

■明転。のどかな山村。【SE】ピヨピヨ・チチチ。広い青空。花と緑に囲まれた小屋。
■レイルさん(♀)が手紙を書いている。
郵便屋「こんにちは!」
レイル「あら、郵便屋さん、こんにちは。どうぞ、上がって」
■郵便屋はペコリと頭を下げて部屋にin。
■レイルはテーブルの上のポットからカップにお茶を注ぐ。
レイル「ちょうど今、手紙を書き終えたところなの」
郵便屋「それは良かった」
レイル「(焦らず封をして)はい、お願いね(手紙と銀貨一枚を渡す)」
郵便屋「はい!お届けします、あなたの想いを。それがボクの仕事です!」
■郵便屋は部屋を出て上手にout。見送ったレイルはお茶をゆっくり飲んでいる。
■上手袖中から【SE】風→嵐→たつまき→樹木がメキメキ!「うわ~~!」
■郵便屋が戻ってくる。服が少しボロボロ。木っ端・葉っぱが服や帽子にくっついて。
郵便屋「こんにちは!」
レイル「あら、郵便屋さん、こんにちは。どうぞ、上がって」
郵便屋「(上がらず)あの・・・すいません。実はこのまえ預かったお手紙・・・風に飛ばされちゃって」
レイル「あら・・・そうなの?」
郵便屋「ごめんなさい!!」
レイル「・・・。いいわ。また書くわ!また書けばいいだけよ。ね?」
■レイルが手紙を書く。サラサラと。
■郵便屋はお茶を飲んで待っている。
レイル「書けた」
郵便屋「(ホッとして)あ」
レイル「(封に入れて)はい、お願いね(手紙を渡す)」
20110130d-9390b.jpg
郵便屋「はい!お届けします、あなたの想いを。それがボクの仕事です!」
■郵便屋は部屋を出て上手にout。見送ったレイルはお茶をゆっくり飲んでいる。
■上手袖中から【SE】ヤギの鳴き声。メーメーメー。段々と大群に。
郵便屋「(焦って)あ~、黒ヤギが!あっ、白ヤギが!あ~~!」
■郵便屋が戻ってくる。服がさらにボロボロ。ヤギの噛み痕や足跡が。
郵便屋「こんにちは!」
レイル「あら、郵便屋さん、こんにちは」
郵便屋「あの・・・すいません。実はこのまえ預かったお手紙が、ヤギに襲われちゃって」
レイル「あら・・・そうなの?」
郵便屋「ごめんなさい!!」
レイル「・・・。いいわ。また書くわ」
■レイルが手紙を書く。びゃ~~っと。
■郵便屋はお茶を飲んで待っている。
レイル「書けた」
郵便屋「(ホッとして)あ」
レイル「(封に入れて)はい、お願いね(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」
■郵便屋は部屋を出て上手にout。見送ったレイルはお茶をゆっくり飲んでいる。
■上手袖中から【SE】車の走行音・ブ~ン。キキーッ!ドン!「きゃー!」
     どたどた・がやがや。警察の笛・ピピピピーー。「おい、大丈夫か!?」
■郵便屋が戻ってくる。服がさらにボロボロ。包帯?足を引きずって杖で。
郵便屋「あの、すいません。お手紙が、ちょっと交通事情でやぶけちゃって!」
レイル「あら・・・そうなの?」
20110130z.jpg
郵便屋「ごめんなさい!!」
レイル「・・・。いいわ。また書くわ」
■レイルが手紙を書く。ガシガシと!
■郵便屋はお茶を飲んで待っている。
レイル「書けた」
郵便屋「(ホッとして)あ」
レイル「(封に入れて)はい、お願いね(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」
■郵便屋は部屋を出て上手にout。見送ったレイルはお茶をゆっくり飲んでいる。
■上手袖中から【SE】猫がニャーニャー。郵「あ、猫だ~。かわいいな~」
           ニャーニャー、ガオ!(ライオン)
■郵便屋が戻ってくる。服が裂け、頬に爪あと。血?
郵便屋「あの、すいません。お手紙を猫が咥えて逃げちゃって・・・。ホントもう、お魚じゃないんだから」
レイル「あら。いいわ、また書くわ」
■レイルが手紙を書く。グイグイと!
■郵便屋はお茶を飲んで待っている。
レイル「(封に入れて)はい、お願いね(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」
■上手袖中から【SE】雨がポツポツ。ザーザー大雨。ゴーゴー台風。
ドドドドドドーっと増水、河の氾濫。「わ~、人が流されたぞー」
■郵便屋が戻ってくる。びしょびしょ。泥まみれで。
郵便屋「あの、すいません。手紙をちょっと雨で濡らしてしまって」
レイル「あら。いいわ、(すでに出来上がっている手紙を)はい、お願いね(渡す)」
郵便屋「はい!」(上手にout)
■上手袖中から【SE】UFOの飛来音。ヒュイーン、ヒュイーン。ピポピポパポ。
「何だ、あれは!?」ポワワワワーン。郵「うわ~、吸い込まれる~!」
牛モ~。樹木メキメキ。
■郵便屋が戻ってくる。
郵便屋「あの、すいません。えっと、あの、ちょっと、昨日の記憶がなくって・・・。えっと」
レイル「はい(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」(上手にout)
■上手袖中から【SE】雷。ぴしゃ!ゴロゴロゴロー!!
■郵便屋が戻ってくる。
郵便屋「あの、すいませーん!」
レイル「はい(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」(上手にout)
■上手袖中から【SE】飛行機の墜落音。キ~~~ン、ドガーーン!
■郵便屋が戻ってくる。
郵便屋「あの、すいませーん!」
レイル「はい(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」(上手にout)
■上手袖中から【SE】銃声・バババババーン!
ラッパ音・パッパラッパパパ、ラッパパッパパッパー。馬・ヒヒ~~ン。(戦場)
■郵便屋が戻ってくる。
郵便屋「すいませーん!」
レイル「はい(手紙を渡す)」
郵便屋「はい!」(上手にout)
■上手袖中から【SE】(人がぶつかる音)ドン。
ヤクザ「何やワレ? おう、どこに眼~つけとんじゃ!」
■郵便屋が戻ってくる。ヨロヨロと。
郵便屋「す、すみま・・・」
■郵便屋は小屋の前で力尽きて倒れる。
■レイルが出てきて。
レイル「あら、生きてる?」
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郵便屋「(頑張って起き上がって)あの、お届けモノです。お手紙のお返事が」
レイル「え・・・嘘?」
郵便屋「ホントです!ほら!」
レイル「困るのよね、返事が来ちゃうと。(封を開けて、軽く目を通すとクシャクシャ、ポイ)
だってこれ、不幸の手紙なんですもの」
郵便屋「え!!(手紙を拾って)『この手紙を受け取った人は、三日以内に5人の人に同じ内容の手紙を送らないと不幸になります』」
レイル「ね?」
郵便屋「・・・」
■END。


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『パンクロッカー・インタビュー』 作:岡野陽平 [読み物・作品]

演劇 四次元STAGE 第1回公演で上演した作品の一つ。
2010年4月 作。
《ホリベエ》の原案に《ふじもん》のアイデアを足して。
       ※上演後の記事→H22.08
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《登場》
King=ヘビメタ系のド派手なパンク・ロック・ミュージシャン。40歳。
マネ=Kingのマネージャー。事務所直通。業界のヒト。
記者=『ピヨコクラブ』の記者。妙に丁寧なしゃべり。
心理b=Kingの心の中の人格。真面目。冷静なビジネスマン風。
心理y=Kingの心の中の人格。甘えん坊。幼い。純粋。
心理z=Kingの心の中の人格。謎。

20100805u.jpg
■ド派手でイカレた感じのロック歌手Kingがマイクを持って立っている。
ビデオクリップの撮影で、断末魔の叫び声を上げて目玉が飛び出した(!)直後。表情固定。

声(監督)「はい、オッケーィ」
(部屋の明かりが点き、スタッフ達がそれぞれはけて行く)
King「ふぅ」
マネ「お疲れさ~ん。(ペットボトルで飲み物を渡す)いい映像取れたよ、King。バッチリ! あと1シーン撮ったら終了。そしたら、後は映像が編集かけて、最高にイカシたビデオクリップに仕上げてくれるから」
King(給水しながら頷く)「…マネージャー」
マネ「ん?」
King「『イカシた』は古い」
マネ「へいへーい、キツイぜKing」
King「ふふ」(KILLのサイン)
マネ(KILLのサイン)
声(スタッフ)「一時間休憩デース」
マネ「あ、King悪いんだけどさ。休憩入る前に10分だけいいかな? 雑誌のインタビューを一件、お願いしたいんだけどさ。10分だけ。すぐ終わらせるから。ね?」
King(OKのサイン)
マネ「ありがとーKing。(奥へ呼ぶ)おーい!」
King「どこ?」
マネ「え、あぁ、『ピヨコクラブ』」

■場転。Kingの脳内。
by「ピヨコクラブ~~!!?」
y「ピヨコクラブだってさピヨコクラブ」
b「・・・(思案中)」
y「ねぇ、ピヨコだよ? ピヨコ? なんでなんで? 何でピヨコ? ピヨピヨぴぴぴぴぴぴ」
b「うるさい!」
y「だ~ってピヨコクラブって子育て雑誌だよ。そっち系の雑誌の超大御所だよ」
b「知ってます」
y「何で僕のところにインタビューしに来るわけ?」
b「知りません」
y「知りませんじゃ困っちゃうよー」
201008kll.jpg
b「私だって困ってます! 主婦向け子育て雑誌が、パンクロックバンド『D・N・D・N』(ディーネヌディーエヌ)のボーカルに何の用なのか」
y「インタビューだよ」
b「何を聞きたいのか!」
y「さぁ」
b「今一生懸命考えているのです。雛鳥のさえずりピヨピヨピーヨコクラブが、この私、泣く子も黙るCawDevilKing(カウ・デビル・キング)様に、一体何の用なのか」
y「インタビューだよ」
b「何が聞きたいのか!」
y「さぁ」
b「輝く宝をその腕に抱いて幸せの絶頂にいる母親・父親たちが、血の海から這い出てきた不幸の使者CawDevilKing、略してCDK、あるいはKingに、何用なのか」
y「インタビューだよ」
b「それは分かってますよ!」
y「『分かってる』って分かってる」
b「そりゃ分かってるでしょうよ。私は私で、僕は僕なんだ。それは分かりきってるんですから、分かってないことを分かるためにあれこれと考える時間をいただけますか!? 今ここで自分の内面分析してる場合じゃないので!」
y「まぁ落ち着きなよ、僕」
b「ムカつく」
z「(今まで奥の隅っこで我関せずお茶を飲んでいたが)もしもし」
y「やや! なんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし、先月初めて、40にして初めて、子が生まれましたけれども」
by「そうだよそうだよ!」
y「僕、娘が生まれたばっかりじゃないか」
b「私、まさに今、子育て真っ最中ですよ」
y「はい、来ましたコレ! だからかピヨコ! 納得ー!」
b「いや、でも、ですよ」
y「何?」
b「おかしいですよ。そんなはずない」
y「何が?」
b「娘が生まれたことは、世間は知らないはずです」
y「そうだ。事務所から止められてる」
b「うん。恐怖の帝王CawDevilKing様が愛娘にデレデレだなんて」
y「赤ちゃん言葉で『ミルクでちゅよー』なんて、あやしてるなんて」
b「『お風呂に入りまちょうねー』」
y「『あらあら。うんち出ちゃいまちたねー』」
b「『昨日競馬で8万円も負けちゃったことは、ママには内緒でちゅよー』」
y「『オバマ大統領がノーベル平和賞ってどういうことでちゅかー?』」
b「だからピヨコはありえません」
y「じゃぁ何でピヨコ来たのー?」
b「分かりませんって!」
y「何で何で何でー」
b「知りません知りません知りません!」

■場転。リアル世界。
King「娘・・・」
マネ「ん? あ、もちろん娘さんのことは(内緒のサイン)だからね」
記者「どうもですー。ピヨコクラブですー。(名詞代わりに雑誌を渡す)よろしくお願いいたしますですー。このたびピヨコクラブの読者アンケートでですね、『D・N・D・N』さんがベストアーティストに選ばれましてですね。つまりは、Kingさんの歌声がですね、『赤ちゃんの夜鳴きに聞く』ということでですね、子育てに奮闘するお母さんたちから絶大な人気なわけなんですーNow」
マネ「時間無いから、サクッとやっちゃって」
記者「あ、はいー! では早速ですね。えー、まず、うちの雑誌は読まれたことありますでしょうか?」
201008kur.jpg
■場転。Kingの脳内。
y「ありまーーす! ありますありまーす!」
b(yの口を押さえて)
y「モガモガ」
b「ダメですって言ってるでしょ」
y「分かってるけどさー。だって、娘が生まれる前から読んでるじゃない」
b「娘がいるってバレたらダメ」
y「分かってるけどさー。子供が出来たって分かってからだから・・・」
b「9ヶ月分」
y「そう。もう9冊も読んでるよ?」
b「たくさん読んでるからって、言っちゃダメなんです」
y「『たまこクラブ』も8冊読んでるから」
b「今『たまこ』は関係ない!」
y「仲間じゃん。姉妹雑誌じゃん。」
b「ここで余計な義理立てしないで」
y「えー、じゃぁどうするの?」
b「・・・」
y「なんて答えるのー?」
b「私も考えろよ!」
y「お・・・。じゃーねー、じゃーねー。『占いのページなら読んだことある』」
b「微妙。ってか“妙”です。妙に乙女チックすぎ」
y「じゃーねー、じゃーねー。『電車で隣の席のヒトが読んでたのを盗み見た』」
b「せこい。小市民すぎます」
y「じゃーねー、じゃーねー」
b「そもそも『読んでた』と答えようという、その方向性が間違っていますよ。Kingとして」
y「だって17冊も読んでるんだよ?」
b「(一瞬考えて)だから、『たまこ』を計算に入れるな!」
z「(奥の隅っこで我関せずお茶を飲んでいたが)もしもし」
y「やや! なんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし、ピヨコクラブの今月号、先週発売されたばかりの今月号、読めなかったんですけれども」
by「そうだよそうだよ!」
y「僕、今月号読めなかったじゃないか」
b「私、今月号まだ読んでないんですよ」
by「くぅ・・・(泣く)」
y「お母さん・・・」
b「お母さん・・・」
y「なんで燃やしちゃうかなーお母さん」
b「聞いてくれますか?」
y「うん。聞くよ。もう知ってるけど」
b「聞いてくれますか?」
y「うん。聞くよ。自分のことだから、よく知ってるけど。」
b「うちの実家、超ど田舎なんで、まだお風呂が五右衛門風呂なんですよね」
y「うんうん」
b「うちの母親が、薪が足りなかったからって・・・」
y「うんうん」
b「ピヨコ燃やしちゃったんです」
y「・・・その表現は残酷に聞こえる」
b「・・・」
y「別の意味で残酷に聞こえる」
b「ピヨコ、燃やしちゃっ・・・た」
y「残酷にしか聞こえない」
b「・・・そうですね」
y「うん」
b「うん」
y「ま、娘を産湯に入れれたし、いっか」
b「ま、いっか」
y「新しいのもらったから、いっか♪」
b「ま、いっか♪」(いつしかラップ調に)
y「だよねー♪」
b「だよねー♪」
y「だよねー♪」
b「だよねー♪」
y「なんかイイ感じ♪」
b「だよねー♪」
・・・FADE OUT

■場転。リアル世界。
記者「あの・・・うちの雑誌を読まれたことは・・・?」
King「・・・燃やした」
記者「燃やした!! 燃やしちゃったんですか!?」
King「・・・」
記者「・・・燃やして、しまちゃって、ございました」
King「・・・」
記者「おぉぉ! すごい! さすがKing! 流石(さすが)でございます! 子育て雑誌相手でも容赦しないこの回答。この切れ味。これは期待できる!」(メモ書き込み)
マネ(Goodのサイン)
King「・・・」(無反応。脳内思案中)
記者「ではでは、次の質問ですー。えー、ご自分のご幼少時代はどんなでしたでしょうか?」

■場転。Kingの脳内。
y「幼少時代かー」
b「牛ですねー」
y「牛だねー」
b「実家が牧場農家でしたからねー私」
y「牛しかいないよねー」
b「鶏や犬や猫もいましたけどねー」
y「そういう意味じゃなくってさー」
b「すいません、分かってます」
y「牛だよねー」
b「牧場農家の長男ですからねー私」
y「10歳までは妹も生まれてなくて」
b「動物たちがいましたけどねー」
y「いつも手伝ってたよねー」
b「学校ではいじめられてましたけどねー」
y「家に帰ると、動物たちが僕のことを待っていて」
b「あの頃は良かったなー」
20100805s.jpg
y「でも・・・悲しいこともあった」
b(ドナドナを歌いだす)「あ~る~晴れた~」
y「(悲しく)僕が10歳のある日、僕が一番大切にしていた牝牛の・・・あぁ、一番大切にしていた牝牛の・・・」
b「(中略)子牛を・・・牝牛を乗せ~てゆく~」
y「牝牛の『牛魔王』が。『牛魔王』が・・・売られていっちゃった・・・それにしても、子供のネーミングセンスってすごいな。牛魔王は無いよな。メスだしな。・・・売られちゃった・・・大きな大きな、冷凍ハンバーグ工場に出荷されちゃった」
b「(中略)ドナドナド~ナ~ド~ナ~」
y「・・・軽トラに揺られて」
b「荷・・・軽トラ揺~れ~る~」
by(ハミングでドナドナのメロディーが続く)
・・・FADE OUT

■場転。リアル世界。
記者「あの・・・ご幼少の頃は・・・?」
King「・・・歌ってた」
記者「う、歌ってた!? 歌を歌っていらっしゃった!?」
King「・・・」
記者「おぉぉ! すごい! さすがKing! 流石(さすが)でございます! ちっちゃな頃から歌ってた! 幼少のころからミュージシャンとしての才能の片鱗が。CawDevilKingになるべくしてなったのですね」(メモ書き込み)
マネ(Goodのサイン)
King「・・・」(無反応。脳内思案中)
記者「ではでは、次の質問ですー。え~、昨今は『男性の育児休暇』を認める会社も増えつつある時代ですけれどもですね、え~、『子育てをする男性』についてKingはどう思われますか?」

■場転。Kingの脳内。
y「(すでにbに口を抑えられている)モンガ、モンガ―!(賛成賛成―!)」
b「くっ」
y「モンガガ!(賛成!)」
b「確かに私は今まさに楽しく子育てをしているけれども、それを言うわけにはいかないんです」
y「モンガ!(賛成―!)」
b「男親が積極的に子育てをすることは子供のために妻のために」
y「モンガ!(賛成―!)」
b「すばらしいことかもしれないけれど、いや、当然のこととおっしゃる方もいるかもしれないけれど」
y「モンガ!(賛成―!)」
b「それを言ってしまったらKingというキャラクターが全て崩壊してしまうんです! 崩れてしまうんです!」
y「・・・(暴れなくなる)」
b「(察知してゆるめる)KingがKingであるために。戦っているんです、私たちは。心の中で。目まぐるしく葛藤しているんです」
y「・・・」
b「ね。分かってくれましたよね」
y「・・・(ポツリと)賛成」
b「だまれ」
y「じゃぁ反対」
b「(ちょっと考えて)いや! 反対ではないんです!」
y「ややこしいなーもう」
b「大事なことです!」
y「じゃぁ反対の反対」
b「!」
y「の反対」
b「!」
z「(奥の隅っこで我関せず寝転んでいたが)もしもし」
y「やや! なんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし、の、あたくしの、妹の、桃子は、妹の桃子は元気でしょうか?」
201008kru.jpg
y「桃子のことは今関係、なくない!!(急変)」
b「え!?」
y「ぬがー(怒)」
b「あ、怒り出した」
y「桃子~!」
b「自家発電中」
y「あんな男は殺してしまえばいいんだ、桃子~!」
b「殺人誘導ですよ」
y「聞いてくれますか」
b「いやです」
y「聞いてくれますか」
b「いやです」
y「聞いてくれますか」
b「いやです」
y「なんでだよ~~(悲)」
b「妹の桃子が付き合ってる男との間に子供ができたから、妊娠したからって言って結婚を迫ったら男がビビッて逃げちゃって、しかも桃子の妊娠もただの勘違いだった、っていう話ですよね」
y「・・・うん」
b「・・・うん」
y「・・・うん」
b「・・・うん」

■場転。リアル世界。
記者「あの・・・『子育てする男性』について・・・?」
King「殺してしまえ」
記者「殺す!! 殺しちゃうんですか!?」
マネ(ハラハラ)
King「・・・」
記者「おぉぉ! すごい! つまりはKingは、子育てするような男は軟弱だというお考えなんでございますね! いやー、ここまで言い切っていただけると痛快です! 記事になりますです」(メモ書き込み)
マネ(Goodのサイン)
King「・・・」(無反応。脳内思案中)
記者「ではでは、最後の質問ですー。えー、その素顔だけでなく、あらゆるプロフィールが謎に包まれているKingさん。ズバリ! お子さんはいらっしゃるんですか?」

■場転。Kingの脳内。
b「いまーす! いまーす! いまーす!」
y「・・・」
b「可愛い可愛い愛娘(まなむすめ)がいまーす!」
y「・・・」
b「生まれたばっかりでーす!」
y「おい」
b「え?」
y「おい」
b「可愛いよ?」
y「知っっってるよ!」
b「あ、そう♪」
y「あのさ・・・」
z「もしもし」
by「早!!」
y「なんだいなんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし思いますに、キャラクター逆じゃないですか?」
y「それ今僕が言おうとしてたことだけど!」
b「まぁまぁ落ち着いて」
y「けどさ!」
b「けどじゃない」
y「でも!」
b「でもじゃない」
y「ちゃうねん!」
b「違わない」
y「いやな!」
b「いやじゃない」
y「なんで???」
b「私もね、分かっているんですよ、Kingとして言っちゃいけないってことは」
y「事務所に止められてるんだからねーだ!(へへーん!)」
b「そう、事務所にね。でもね、私もね、本当は言いたくて言いたくて仕方がないんです。自分の子供のことを、その存在を、世界に誇りたい。『娘がいる』と大声で言いたい!! 少なくとも『いる』のに『いない』なんて言えません!」
y「じゃぁ、言おう! 言っちゃおう!」
b「(冷たく)事務所に止められてますから」
y「結局どっちなんだよ!?」
b「悩んでるんです!」
y「心のままに生きるんだよ!」
b「理性を失ったら人間じゃない!」
y「事務所がなんだ!」
b「雇い主です!」
y「もっともなことを言うな!」
b「お給料くれるヒトです!」
y「お金がなんだ! 自由のほうが大事だ!」
・・・FADE OUT
201008kdrt.jpg
■リアル世界
記者「あの、ズバリ! ズバリ! ・・・あの・・・お子さんは?」
King「事務所に・・・いる・・・」
記者「え!?」
マネ「え!?」
記者「いる!? お子さんいらっしゃるんですね!?」
マネ「いないいないいない!」
記者「事務所に遊びに来てるんですか?」
マネ「来てない来てない来てない!」
201008pnk01.jpg
記者「どういうことですか!? あ、もしかして二世タレント!」
マネ「えぇ!?」
記者「あ! そうなんですね!」
マネ「話飛躍(ひやく)しすぎだからさ、落ち着こうよ」
記者「特ダネだーー! ありがとうございますー。失礼しますですー」(去る)
マネ「ちょっとー!」(追う)
King「・・・(ちょっと嬉しげ)」

■オワリ。

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『待ち合わせは、あの木の前で』 [読み物・作品]

短編小説、かな。
特に目的はなく、思いつきで書いてみました。
~~~~~~~~~~~~~~~

『待ち合わせは、あの木の前で』  2012.02.09

都会の中の、小さな駅。
駅のすぐ脇には小さな公園があって、
その公園で一番大きな木は、よく待ち合わせの目印にされた。

その場所で彼女と出会ったのは、ある夏の日だった。
彼女も誰かと待ち合わせなのだろうか、ただの時間つぶしなのだろうか。
いずれにせよ、彼女は日差しを避けて木陰にやってきた。

彼女は僕のすぐ目の前に立っていた。
彼女がそこに立っていた15分の間、
僕は全く気にしていなかった。
待ち合わせで、ヒトが前に立つなんてよくあることだ。

敢えて言うが、
とてもとても背の高い僕と、
とてもとても小柄な彼女との位置関係ではあったが、
彼女が視界に入らなかったという訳ではない。


だが、ついに彼女が移動しようとしたその時に、
彼女は真後ろに立っていた僕の足に引っかかって、
思い切り、膝を着くほどに転んでしまった。
彼女はパッと僕を見上げて、恥ずかしがって言った。
「いい歳して、転んじゃった・・・」



彼女は近くの大学の4年生で、
今は就職に困っているという。
こっちで就職するのか、遠い実家に帰るのか。
夢があるわけでもなく、なんとなくこのまま都会での暮らしを続けたいのだが、
就職は決まらないという。
彼女は「夢がないから、なんとなくだから、上手くいかないのだろうか」と
沈んだ顔をすることが多くなったようだ。
そういったことを、僕は半年かけて少しずつ知っていった。


卒業間近の2月になって、
彼女はやっと結論を出した。

つまり、彼女は実家に帰ることに決めたのだ。
実家で、家の手伝いをするという。

それを僕が最初に知ったのは、
彼女の口から直接聞いた訳ではなく、
彼女が携帯電話で実家に打っていたメールを、
偶然見てしまったからだ。

もちろん携帯を勝手に開いたりなんかできるわけがない。
彼女よりも背が高い僕が、偶然後ろから覗き見てしまったのだ。
不可抗力だと言い訳した。
まぁ、こういう偶然は今までに幾度もあったわけだが。



彼女が実家に帰る日。駅の公園で。
僕のそばに立つ彼女は、
急に、黙ったまま僕に寄り添ってきた。

彼女のぬくもりを感じる。
他人の重さを感じる心地よさ。
僕は動揺してめまいがするようだったけど、
同時に温かい気持ちで心が一杯で、
今この時間の全てを感じ取ろうと、必死だった。

彼女がささやくように、
「寒い・・・」と言った言葉が、
今が冬だってことを僕に思い出させた。


僕は彼女を後ろから抱きしめてしまいたかったけれど、
広げた手は、空中で冬の冷たい風に揺れて、行き場を失ったみたいだ。
ちょっと伸びをしたり、節の運動をしただけで、
僕は望みを行動に表すことは出来そうになかった。


さようなら。
彼女は一人で駅に歩いていった。
僕は彼女の後ろ姿を見送った。
僕には、追いかけることは出来ない。
出来ないんだ。

さようなら。
僕にはただ見送ることしか出来ない。


都会の中の、小さな駅。
駅のすぐ脇には小さな公園があって、
公園で一番大きな木が、
僕だ。



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