『女郎屋』 あらすじ 作:岡野陽平 [読み物・作品]

※明治初期の女郎屋の話。

 (注)禿:かむろ=女郎見習いの幼い少女。お客は取らない。
           姉女郎について習いながら、その世話をする。
 (注)水揚げ:みずあげ=禿が一人前の女郎になる、夜の儀式。
 (注)番頭新造:ばんとうしんぞう
          =歳を取ってお客を取らなくなった女郎がなる。

2010.JPG
<第一幕>
幕が開くと女郎たちが舞い踊り、お客の旦那はお金を撒き散らし、
お座敷は飲めや唄えの大宴会です。
■旦那「わっはっは。愉快、愉快」
旦那は踊り子の中から一人、舞の上手な禿(かむろ)に目を留めて
■旦那「あの妓(こ)の水揚げをしよう」

店の女将や年増(としま)の番頭新造はあれこれと反対しますが、
■旦那「もうとっくに水揚げをして良い歳じゃないか!」
店のお得意である旦那の機嫌を損ねては困ると、女将も仕方なしに承諾することに。
■女将「ついにこの時が来ちまった」
■番頭新造「どうするんですか、水揚げなんか。あの子にゃ無理な話ですよ?」
だってあの子は『男の子』なんです。
■女将「身代わりを立てるのよ」
女将は男の子と若い女郎を使って説明します。
■女将「宴の席では本人で、いざ床(とこ)に入るとなったら入れ替わる。真っ暗闇なら 分かりゃしないよ。事(こと)の後で旦那が寝こけたら、また元に戻って朝が来る、と」
それは良い案ですね。はたして上手くいくでしょうか。

男の子は一人の時はよく屋根裏部屋にやってきます。彼だけの秘密の部屋。
この部屋にいる時だけは誰の目を気にすることもなく男の姿に戻れるのです。
今日は自分の水揚げのことが気にかかって、舞の稽古に身が入りません。
そこへ、オドロオドロしく声が聞こえます。
■妖怪「どうした、どうした。辛気臭いねー」
現れたのは花魁(おいらん)の妖怪です。
生前は花街女郎の皆が羨む人気者でしたが、恨みを残して死んだのでしょうか。
男の子は何ら怖がることもなく、
■男の子「あ、お師匠さん」
なんとこの花魁妖怪は男の子の芸事の師匠なのです。
小さい頃からずっと、舞やお琴などの芸事を教えてくれています。
■妖怪「どうしたんだい?」
■男の子「実は・・・」
男の子は自分の水揚げが決まった話をします。
■妖怪「知ったこっちゃないよ。武士なら衆道(しゅどう)・若道(じゃくどう)といって男同士で するもんさ。そんなことより、今日の稽古だ!」
なんて厳しい花魁妖怪でしょうか。
花魁妖怪は自分の芸の技を誰かに伝えたかったのです。 それが男の子だったのは、妖怪にも誤算でしたが。

その頃、店には有名な旅一座の座長・川上音二郎さんが遊びに来ていました。
今日は伊達な格好の女の子を一人連れて、
■音二郎「この娘はうちの女優だがどうも男勝りで良くない。女郎たちから
真の女らしさ というものを学ばせようと思いまして、連れてきたのです」
そんなこと言って、自分が遊びたかっただけなんじゃないんですか?
この女の子と店の男の子の『初々しい恋物語』なんていかがでしょう。
ここに男の子と同い年の、幼馴染の女郎も絡んできます。

店には他にもお客が来ます。
役人の男も常連です。役人は一人の女郎から噂を聞きました。
■女郎A「誰かが話してるのが聞こえたの。この店で育てられた男の子がいるって」

旅の女絵師がやってきたり。
■絵師「別に春画を描こうってんじゃないのよ」

なまくら坊主も常連です。
■坊主「うちの宗派の規則では、妻を娶ることは禁止していますが、
女郎屋に来ることは禁止していませんよ」

さて、そうこうするうちに、ついに男の子の水揚げの日が来ました。
宴も終わり、床で待つ旦那の期待が最高潮まで高まったところで、
■男の子(?)「お持たせしました」
現れたのは、化け物のように化粧が厚~い不細工な女郎です(番頭新造)。
■旦那「ギャー」
■番頭新造「しゃなり、しゃなり」
■旦那「妖怪が出た~!」
■番頭新造「しゃなり、しゃなり」
旦那は腰が抜けて、最後は気絶してしまいます。
夜が明けて、全てうやむやに。作戦大成功??


<第二幕>
絵師が男の子をモデルに絵を描いています。
■絵師「あなた、男でしょ」
なんと絵師に見抜かれてしまいました。
■絵師「私の仕事は『ヒトを見る』仕事だからね」

また、川上音二郎さんは舞の上手な男の子を捕まえて
■音二郎「君、私の一座に入らないかい?」
と、自分の旅一座に誘います。

店に役人がやってきます。
役人はエラ~イ政治家さんの命令を持ってやってきました。
■役人「この店で育てられた男子がいると聞いた。エラ~イ政治家さんの奥様がその話を 聞いて、実はその男子の生みの親は自分である、自分が引き取って育てたいとおっしゃる」
その奥様は、昔この店で働いていた女郎さんだったのです。
■役人「さぁ、名乗り出よ」
■女将「どういうことだい?」
次々と質問する女郎たち。答える役人。
母親の存在がおぼろげながら分かってきます。
お客である旦那や音二郎さんなども話を聞きに加わって、
でも男の子はもちろん名乗り出ません。
■番頭新造「この店にはそんな男の子なんていませんよ!でたらめを言って!」
■役人「名乗り出ないか。ならば・・・誰か情報を。金を出すぞ」
■他の全員(いっせいに番頭新造を指差して)「こいつです!」
■番頭新造「えぇ!!?」
■役人「・・・いや、そいつはナイ。有り得ナイ」

役人は情報収集に走ります。
絵師から話を聞いたり。旦那から話を聞いたり。
男の子が昔から身に着けていた『かんざし』が証拠になったり。
そして、幼馴染の女郎が、恋に破れた腹いせに全てをしゃべってしまうのです。

有力な情報を得た役人は男の子を見つけ出します。
しかし、男の子はついていく事を頑なに拒否します。
当の本人が嫌がっては、役人も困ってしまいます。

そこで役人は策を巡らし、
■役人「この者は妖怪に取り憑かれている」
と言って無理やりに男の子を連れて行こうとします。
屋根裏にいる花魁妖怪のことがばれてしまったのでしょうか。そうではありません。
役人が言っているのは水揚げの時に出た妖怪、つまり番頭新造のことです。
ところが、
■妖怪「わたしのことか~~い!?」
■全員 叫ぶ「わ~!」「ギャー!」「きゃー!」など
本物の妖怪が現れたので、店は大パニックです。
■坊主「え~い、なむなむ!」
■妖怪「ぐわーー」
なまくら坊主が頑張って妖怪を撃退し、役人は堂々と男の子を連れて行くのでした。


<第三幕>
政治家さんのお屋敷へ連れてこられた男の子。
■母親「このかんざしは確かに私の物。あなたは私の子に間違いないわ」
しかし、親子の再会にも笑顔が出ません。

女郎屋では、事情を知っていた女将や番頭新造に対して、皆の問答が続きます。
なぜ女として育てられたかなど、男の子の謎も明かされていきます。
そして出た結論は
■女将「あんな罪人みたいに連れて行かれて可哀想に」
■旦那「とにかくあの子を連れ戻そう」
でもどうやって?

そこで出ました、旅一座の座長・川上音二郎さん。
■音二郎「僕に考えがあります」
音二郎さんの考えとは、まず有名人の音二郎さんのツテを通じて、政治家さんのお屋敷で 芝居を上演するように話をもちこみます。
■音二郎「女郎の皆さんが僕の一座の役者に化けて、政治家さんのお屋敷に
乗り込むんです」
はたして上手くいくでしょうか?

計画通り、政治家さんのお屋敷で芝居が上演され、政治家さん、その奥様、そして男の子、 などが見ています。男の子は男の服装を着せられたり、召使を付けられたりして、 今や自由のない籠の鳥状態です。
さて、一座の芝居は大成功。拍手喝さいのうちに終了すると
音二郎さんお得意の、〆(しめ)の音頭『オッペケペー節』が始まります。
■音二郎「オッペケペー オッペケペー オッペケペッポー ペッポッポー」
女郎たちも合わせます。
■音二郎&女郎達「オッペケペー オッペケペー オッペケペッポー ペッポッポー」
■音二郎「さぁさぁ、皆さんご一緒に」
そういって政治家さんや奥様、そして男の子などを誘います。
お屋敷内はオッペケペー節の大賑わい。
■全員「オッペケペー オッペケペー オッペケペッポー ペッポッポーーィ」
■音二郎「ありがとうございましたー」
そうやって皆がはけるドサクサに紛(まぎ)れて、男の子を助け出すのに成功したのです。


<第四幕>
作戦が成功して皆が女郎屋に戻ってきました。
■男の子「助けていただいてありがとうございました。ですが、僕がいては店に迷惑が かかります。出て行きます」
■女将「迷惑なんてあるもんか」
皆が止めます。

そこへ、政治家さんと奥様がやってきます。
奥様は男の子に心から謝り、改めて一緒に暮らしたいと願います。

男の子は今や店に残ることも、母親と一緒にお屋敷で暮らすことも自由です。
■男の子「僕は芸事の道に進みたいのです。だから、音二郎さんの一座に入れて いただいて、旅回りをしたいと思います」

皆がその決意を祝福します。
■男の子「お師匠さん、さようなら!」
花魁妖怪も男の子の旅立ちを見送ります。
■妖怪「・・・。しっかりやんなよ」
皆が男の子の旅立ちを祝うために踊るのでした。
■妖怪「あ~ぁ、やっと私の跡継ぎができたと思っていたのに、
・・・まぁ仕方ないね。次のいい妓(こ)が現れるまで、まだまだ私も成仏できないね」

おしまい。



さて、メインストーリーは以上ですが、物語を盛り上げるアイデアが他にもたくさん出ているので、いくつか紹介します。

▼花街は店同士の争いも激しく、独自のサービスを競っていきます。
お客を縄で縛ってSMチックにしたり。メイド喫茶風にしたり。
 ライバル店の女郎が嫌味を言いに来たりします。

▼男の子の水揚げが遅いことについて、事情を知らない店の女郎たちからも疑問の声が 上がります。男の子にも姉女郎がいたり、そのライバルの女郎がいたり、その禿(かむろ)が いたりと、店の女郎たちにも様々な人間模様を加えて、厚みをもたせます。

▼役人から他の女郎、例えば番頭新造が『男』だと疑われたときに、
『女である証拠を見せる』といって、後ろ向きにガバッと着物を開(ひら)きます。
「さぁ、どうだ!」

▼育ての親である女将、あるいは番頭新造が男の子のことを実の子のように必死に
育てるのは、昔自分が身ごもった子供を堕(お)ろしているからです。

▼唯一実在の人物である音二郎さんですが、その奥さん貞奴(さだやっこ)も、マダム貞奴 として国際的に有名な女優でした。貞奴も元々は芸子の出身なので、物語の中で 一言くらいは触れておきたいです。

▼音二郎は男の子に「もっと世界に目を向けろ」と言ったり、
明治、国際化などを感じさせる存在でありたいです。

以上です。

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2009年12月頃に書いたモノ。
ピッコロ(本科)の卒業公演のため。
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