落語『宿屋仇』 [読み物・作品]

落語は同じ作品でも、長く30分以上やったり、10分程度に縮めたり、
演者によっても大きく展開が変わったりします。

《まっそ》が10分程度にまとめました。
落語に大切な冒頭「まくら」は省略。
まくらは毎回、季節なんかによっても変わりますしね(´▽`)
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〜〜〜〜〜〜〜
★語り
◎侍
○伊八

清●
喜▲
源やん■

★宿場町というものは面白いものでございます。
昼間はちょろちょろっと旅人が見えるくらいですが、夕方ころになるとあっちゃこっちゃから宿の客引きが出てきてあちらこちらでわあわあとしております。
そんなところ、ある宿の前にお侍さんが一人。

◎紀州屋源助とはそのほう宅であるかな?
○へえ、手前どもでございます。
◎その方が主の源助であるか?
○いえいえ、手前は当家の若いもんでございます。
◎若いもの?若いものにしては頭が剥げておるが
○こんなところに奉公しておりますと、いくつになりましても若いものとこう申しますのんで
◎さようか、あー、名は?なんと申す
○伊八と申します。
◎では伊八、ここに二朱入っておる。これを遣わす
○へえこれはありがとうございます
◎うむ 昨晩の宿では詠歌(えいか)じゃ経じゃ歯ぎしりや果ては駆け落ちものがいちゃいちゃ申すやら、なんともやかましゅうで一睡もできなんだ。今宵は狭くてもかまわん、静かな部屋へ案内してもらいたい。
○かしこまってございます。八番さんへご案内ー!
★と、このお侍を二階の角部屋へと案内したのでございます。

★さてそのあとからやってまいりましたのは若い男の三人連れ。
伊勢参りの帰りと見えまして、景気よくわあわあ言いながら上がってまいりました。
やれ酒だ刺身だ芸者だと、上がるなりどんちゃんどんちゃんの大騒ぎ。

●おーいもっとじゃんじゃん持ってきてくれ!今日はぱーっといくでー!
★一方、隣のお侍、旅日記でもつけて休もうかと筆を執ったところでこの騒ぎ。

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◎(手を打ち)伊八ー!伊八ー!
○へい、お呼びで。
◎伊八、部屋を頼んだ折、その方に二朱遣わしたな。
○へえ、確かにちょうだいいたしました。
◎その折りその方になんと申した。狭くても構わん、静かな部屋へ案内してくれというたであろう。それなのに何じゃ隣のあの騒ぎは。どんちゃんどんちゃん騒がしい。即刻、静かな部屋へ変えてもらいたい。
○まことにすまんこってございます、あいにく満室でして…騒ぎを鎮めてまいりますゆえ、どおぞこれにてご辛抱願います。
◎では はようしてくれ。
○かしこまりましてございます。

○ええ、ちょっとごめんを
■おお伊八、ええとこきた まあお前さんもぐーっと一杯
○頂きたいのは山々でございますが、ちょっとお願いしたいことがございまして
源■おおなんやなんや?
○あのお、もう少々お静かにお願いしたいのでございます
清●静かに願いたい?何をいうてるんや、酒、魚におなごと並べて静かになんかできるかい。お静かがよかったらお前、さいしょっからあきまへん とこう言わんかい
○手前ども、賑やかなんはまっこと大歓迎なんですけども、隣のお客さんが「もうちょっと静かにするように」とこう申しますもんで
●なんじゃい。隣の客がいいいよるんか。ほんならこう言うてやれ、お静かにがよかったらそれだけの金出して貸切せんかい!ってなあ
○ええ、言わしてもらわんことないんですけど、実は隣のお客さん、お侍でございまして…
●え 侍 お、おまえそれ先言わんかい!でかい声で言うてしもたわ聞こえてへんやろな…おお~こわ!わい侍嫌いやねん、なんや人斬り包丁持ってごめーんズバーってな…ごめんて誰が許すかってんだ。わかったわかった、しゃーない。もお帰らすしあんじょぉ言うといて…
○スンマセン、おありがとうございます

○えー、あの通り静めて参りましたのでどおぞこれにてご辛抱を
◎ん。手間をかけたな。そちも早く休んでまいれ
★一方、「お静かに」言われた三人組は。
清●あほらしなってきたなー、ちょっと騒いだだけやないかい。今日は夜通し騒ごーおもとったんに…しゃーない、もお寝よか
喜▲なんや、飯食わんのか?
源■まああんだけ食うたんや、もおええやないか。おーい、
○へい、お呼びで
■おお伊八っとん、布団ひいてんか
○もおおやすみでっか
●しゃーないがな、また「お静かに」言われたらかなわんからな
○こりゃまことにあいすまんこってす、すぐにお布団をお敷きいたします

●あーあ、ホンマあほらしなってきたなあ。ちょーっとわあわあ言うただけやで
▲清やん、まあそお言いなや、すんなり行った旅なんかオモロないで、気分よおぱーっとやってたら隣のお侍に「お静かに」食ろてさっさと布団もぐったなんて話のタネんなっておもろいやないか
■しかし、今回の旅はおもろかったなあ
▲おもろかったなあ、今回は特に、どこいっても兵庫のもんや、いうたらおぉ、兵庫かいな、いうて兵庫ちゅうとこ知っててくれたやろ、あれがうれしかったねえ
●当たり前やないか、兵庫は有名なとこやで。なんたってええ相撲取りが出てるからなあ
▲そんなもんか?
●当たり前やないか。みーんな出身地の名前頭に頂いて日本中旅しとおねんで、ええ相撲取りが出たら有名にもなるがな
■わいが一番好きなんはあれや、相撲が好きで好きで、坊さんやめてもおた…
▲捨衣やな、見たでえ、あれは体は小さいけどなかなかのもんや、こないしてグっと持ってな
●こらこらこら、わいのフンドシ引っ張ってどおすんねん、ちょちょちょ待ち…そおい
▲おお、やんのんか、そっちがその気なら
■待った待った、布団の中で相撲取りな、お、お、立った!立った!のこったのこった!なかなかやるやないか、八卦良い、八卦、お、勝負あったー!!
●いたーい!

◎(手を打ち)伊八ー!伊八ー!
○またかいな。へい、お呼びで。
◎伊八、部屋を頼んだ折、その方に二朱遣わしたな。
○へえ、確かにちょうだいいたしました。
◎その折りその方になんと申した。狭くても構わん、静かな部屋へ案内してくれというたであろう。それなのに何じゃ隣のあの騒ぎは。今度は相撲か、どったんばったんいたあーいとは何事か。即刻、静かな部屋へ変えてもらいたい。
○まことにすまんこってございます、先ほども申し上げました通り、あいにく満室でして…騒ぎを鎮めてまいりますゆえ、どおぞこれにてご辛抱願います。
◎では はようしてくれ。
○かしこまりましてございます。

★急いでとなりの部屋を覗いてみますと、のこったのこった布団の上で大立回り。綿も飛び出しそうな勢いでございます。
○うわー、こりゃえらい騒ぎや。ちょっとご免を
▲よおーっしゃあ、ほんならもっぺんおまんと勝負やあ!
○あのー、隣のお侍
●うわ!すっかり忘れとった、ご免、もう寝る、堪忍や!
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○こっちも寝さしてもらえませんで、どおぞお静かにお休みくださいますよう…

○あの通り静めて参りました故、どおぞこれにてご辛抱を
◎たびたび手間をかけたな、そちも早く休んでくれ

★またまたお静かに、言われた三人組。今度こそおとなしく布団にもぐりこみました。
●いやーいかん。相撲の話はどうしても力が入る。なんか力の入らん話にしよ、力の入らん話ちゅうたら…あれか
■あれやな
▲なんや
●色事の話に決まってるがな、
▲んなもんあるかいな、この顔触れで
■ある
▲源やん、あるんか
●ほんまかいな
■ほんまも何も、俺は間男したぞ、それもそこらの子守女やない、侍の嫁はん間男して、人ふたあり殺して五十両もって逃げて、見ての通りいまだに捕まらんっちゅうねん
▲ひゃー、ホンマかいな、いつの話や?
■もう八年ほど前になるか、オジキの手伝いで行ったお侍の屋敷でな、ごっつい綺麗どころやで、ええー感じになって…まあそこでゴジャゴジャあったと思いンか。そしたらや、運悪く侍の弟にみつかってもうて、こりゃどうしょうもない、逃げるが勝ちやとおもうてバーッと出よったら、向こうさんの廊下があんまりピッカピカに磨いてあるもんやから、つーっと滑って刀がつるり、ワイのほうへ飛んできよった。もうそれ、そこは無我夢中でカタナ引っ掴んでわぁーっと突いた突いた
▲えらい勢いや
■えらいことなったいうて奥方真っ青や、かくなる上は「わらわを連れて逃げてくれ」ときたもんだ。せやかて、女連れでそない逃げられるわけがない。しゃあない、路銀やいうてもろた五十両はありがたーく頂いてズバー
●奥さんまで斬ったんかい
■そないせな逃げられんやろおが。どや、これくらいの話はあるか
▲はあー源やんやるなあ、聞いたか清やん
●聞いた聞いた、どえらい色事師や
▲よっ!源やん色男!イケメン!モテ男!

◎(手を打ち)伊八ー!伊八ー!

○またかいな、寝さしよらんなこら。お次はなんざんしょ… へい、お呼びで

◎伊八、喜んでくれ
○へえ、それはおめでとうございます なんでございましょ
◎実はな、八年ほど前、藩許(くにもと)において妻、弟を討たれ、仇討ちのために諸国を巡っておったのだが、今宵その仇のありかがわかったのじゃ
○それはそれは、して その仇と申しますのは?
◎隣の部屋に泊まりおる男衆、その源やんとかいうやつじゃ。たった今、おのが口からぺらぺらと白状しおった。かくなるうえは直ぐにでも討つ!と言いたいところじゃが、その方らに迷惑を掛けるのも気が引ける。明朝店を出てすぐ、出会い頭に討つことにいたす。それまでの間、しかと見張っておけよ。あとのふたりは友であれば助太刀をするであろうが、ついでじゃ、助太刀せずともついでにズバッといてまお。
よいか、一人たりとも逃がすでないぞ。そのときは宿じゅう連帯責任じゃ、ズバッといく
★きつーく伊八に申し付けると、お侍は刀の手入れを始めてしまいました
○どえらいことになったでえ。ええ、ええ、ではしっかりと縛りつけておきますで…

○というわけでございまして失礼をば
■うえええコワあああ、嘘じゃ、嘘じゃ、聞いた話をワシのことみたいに言うただけやて
○ああこら、暴れんで下さいませ、縛りにくうございます。そう申されましてもね、お侍も偉い剣幕で おかわいそうですがズバッと
■そんなあほな
●待て待て、なんでわしらまで一緒にしばられてんねん!
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○お二人さんも、ついでにずばーっといくいうてましたんで、ご一緒に
▲ついでぇ!?ついでに斬られてまうのんか

★もう宿中がしずかーに大騒ぎでございます。
柱に括られた三人組は、塩かけた菜っ葉みたいにシューン。
そうしていよいよ朝がやってまいりました。

◎(手を打ち)伊八―!伊八―!
○あーもうトラウマや、当分この声聞こえてくるわ。へえ、お呼びで
◎おお、伊八か。昨夜はずいぶん手間を掛けさせたな、これは礼じゃ、とっておけ
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○ありがとうございます…。で、あの三人はいかように
◎そうじゃな、泊まるなり発つなりさせてやれ。
○へ?仇討ちの件は
◎仇? はっはっは!伊八、許せ。ありゃ嘘じゃ
○嘘ぉ! おかげでだーれも寝てませんねんで、なんでまたそんな大層な嘘を

◎伊八、許せ。ああでも申さんと、また夜通し寝かしおらんわい。


(おわり)
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