『パンクロッカー・インタビュー』 作:岡野陽平 [読み物・作品]

演劇 四次元STAGE 第1回公演で上演した作品の一つ。
2010年4月 作。
《ホリベエ》の原案に《ふじもん》のアイデアを足して。
       ※上演後の記事→H22.08
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《登場》
King=ヘビメタ系のド派手なパンク・ロック・ミュージシャン。40歳。
マネ=Kingのマネージャー。事務所直通。業界のヒト。
記者=『ピヨコクラブ』の記者。妙に丁寧なしゃべり。
心理b=Kingの心の中の人格。真面目。冷静なビジネスマン風。
心理y=Kingの心の中の人格。甘えん坊。幼い。純粋。
心理z=Kingの心の中の人格。謎。

20100805u.jpg
■ド派手でイカレた感じのロック歌手Kingがマイクを持って立っている。
ビデオクリップの撮影で、断末魔の叫び声を上げて目玉が飛び出した(!)直後。表情固定。

声(監督)「はい、オッケーィ」
(部屋の明かりが点き、スタッフ達がそれぞれはけて行く)
King「ふぅ」
マネ「お疲れさ~ん。(ペットボトルで飲み物を渡す)いい映像取れたよ、King。バッチリ! あと1シーン撮ったら終了。そしたら、後は映像が編集かけて、最高にイカシたビデオクリップに仕上げてくれるから」
King(給水しながら頷く)「…マネージャー」
マネ「ん?」
King「『イカシた』は古い」
マネ「へいへーい、キツイぜKing」
King「ふふ」(KILLのサイン)
マネ(KILLのサイン)
声(スタッフ)「一時間休憩デース」
マネ「あ、King悪いんだけどさ。休憩入る前に10分だけいいかな? 雑誌のインタビューを一件、お願いしたいんだけどさ。10分だけ。すぐ終わらせるから。ね?」
King(OKのサイン)
マネ「ありがとーKing。(奥へ呼ぶ)おーい!」
King「どこ?」
マネ「え、あぁ、『ピヨコクラブ』」

■場転。Kingの脳内。
by「ピヨコクラブ~~!!?」
y「ピヨコクラブだってさピヨコクラブ」
b「・・・(思案中)」
y「ねぇ、ピヨコだよ? ピヨコ? なんでなんで? 何でピヨコ? ピヨピヨぴぴぴぴぴぴ」
b「うるさい!」
y「だ~ってピヨコクラブって子育て雑誌だよ。そっち系の雑誌の超大御所だよ」
b「知ってます」
y「何で僕のところにインタビューしに来るわけ?」
b「知りません」
y「知りませんじゃ困っちゃうよー」
201008kll.jpg
b「私だって困ってます! 主婦向け子育て雑誌が、パンクロックバンド『D・N・D・N』(ディーネヌディーエヌ)のボーカルに何の用なのか」
y「インタビューだよ」
b「何を聞きたいのか!」
y「さぁ」
b「今一生懸命考えているのです。雛鳥のさえずりピヨピヨピーヨコクラブが、この私、泣く子も黙るCawDevilKing(カウ・デビル・キング)様に、一体何の用なのか」
y「インタビューだよ」
b「何が聞きたいのか!」
y「さぁ」
b「輝く宝をその腕に抱いて幸せの絶頂にいる母親・父親たちが、血の海から這い出てきた不幸の使者CawDevilKing、略してCDK、あるいはKingに、何用なのか」
y「インタビューだよ」
b「それは分かってますよ!」
y「『分かってる』って分かってる」
b「そりゃ分かってるでしょうよ。私は私で、僕は僕なんだ。それは分かりきってるんですから、分かってないことを分かるためにあれこれと考える時間をいただけますか!? 今ここで自分の内面分析してる場合じゃないので!」
y「まぁ落ち着きなよ、僕」
b「ムカつく」
z「(今まで奥の隅っこで我関せずお茶を飲んでいたが)もしもし」
y「やや! なんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし、先月初めて、40にして初めて、子が生まれましたけれども」
by「そうだよそうだよ!」
y「僕、娘が生まれたばっかりじゃないか」
b「私、まさに今、子育て真っ最中ですよ」
y「はい、来ましたコレ! だからかピヨコ! 納得ー!」
b「いや、でも、ですよ」
y「何?」
b「おかしいですよ。そんなはずない」
y「何が?」
b「娘が生まれたことは、世間は知らないはずです」
y「そうだ。事務所から止められてる」
b「うん。恐怖の帝王CawDevilKing様が愛娘にデレデレだなんて」
y「赤ちゃん言葉で『ミルクでちゅよー』なんて、あやしてるなんて」
b「『お風呂に入りまちょうねー』」
y「『あらあら。うんち出ちゃいまちたねー』」
b「『昨日競馬で8万円も負けちゃったことは、ママには内緒でちゅよー』」
y「『オバマ大統領がノーベル平和賞ってどういうことでちゅかー?』」
b「だからピヨコはありえません」
y「じゃぁ何でピヨコ来たのー?」
b「分かりませんって!」
y「何で何で何でー」
b「知りません知りません知りません!」

■場転。リアル世界。
King「娘・・・」
マネ「ん? あ、もちろん娘さんのことは(内緒のサイン)だからね」
記者「どうもですー。ピヨコクラブですー。(名詞代わりに雑誌を渡す)よろしくお願いいたしますですー。このたびピヨコクラブの読者アンケートでですね、『D・N・D・N』さんがベストアーティストに選ばれましてですね。つまりは、Kingさんの歌声がですね、『赤ちゃんの夜鳴きに聞く』ということでですね、子育てに奮闘するお母さんたちから絶大な人気なわけなんですーNow」
マネ「時間無いから、サクッとやっちゃって」
記者「あ、はいー! では早速ですね。えー、まず、うちの雑誌は読まれたことありますでしょうか?」
201008kur.jpg
■場転。Kingの脳内。
y「ありまーーす! ありますありまーす!」
b(yの口を押さえて)
y「モガモガ」
b「ダメですって言ってるでしょ」
y「分かってるけどさー。だって、娘が生まれる前から読んでるじゃない」
b「娘がいるってバレたらダメ」
y「分かってるけどさー。子供が出来たって分かってからだから・・・」
b「9ヶ月分」
y「そう。もう9冊も読んでるよ?」
b「たくさん読んでるからって、言っちゃダメなんです」
y「『たまこクラブ』も8冊読んでるから」
b「今『たまこ』は関係ない!」
y「仲間じゃん。姉妹雑誌じゃん。」
b「ここで余計な義理立てしないで」
y「えー、じゃぁどうするの?」
b「・・・」
y「なんて答えるのー?」
b「私も考えろよ!」
y「お・・・。じゃーねー、じゃーねー。『占いのページなら読んだことある』」
b「微妙。ってか“妙”です。妙に乙女チックすぎ」
y「じゃーねー、じゃーねー。『電車で隣の席のヒトが読んでたのを盗み見た』」
b「せこい。小市民すぎます」
y「じゃーねー、じゃーねー」
b「そもそも『読んでた』と答えようという、その方向性が間違っていますよ。Kingとして」
y「だって17冊も読んでるんだよ?」
b「(一瞬考えて)だから、『たまこ』を計算に入れるな!」
z「(奥の隅っこで我関せずお茶を飲んでいたが)もしもし」
y「やや! なんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし、ピヨコクラブの今月号、先週発売されたばかりの今月号、読めなかったんですけれども」
by「そうだよそうだよ!」
y「僕、今月号読めなかったじゃないか」
b「私、今月号まだ読んでないんですよ」
by「くぅ・・・(泣く)」
y「お母さん・・・」
b「お母さん・・・」
y「なんで燃やしちゃうかなーお母さん」
b「聞いてくれますか?」
y「うん。聞くよ。もう知ってるけど」
b「聞いてくれますか?」
y「うん。聞くよ。自分のことだから、よく知ってるけど。」
b「うちの実家、超ど田舎なんで、まだお風呂が五右衛門風呂なんですよね」
y「うんうん」
b「うちの母親が、薪が足りなかったからって・・・」
y「うんうん」
b「ピヨコ燃やしちゃったんです」
y「・・・その表現は残酷に聞こえる」
b「・・・」
y「別の意味で残酷に聞こえる」
b「ピヨコ、燃やしちゃっ・・・た」
y「残酷にしか聞こえない」
b「・・・そうですね」
y「うん」
b「うん」
y「ま、娘を産湯に入れれたし、いっか」
b「ま、いっか」
y「新しいのもらったから、いっか♪」
b「ま、いっか♪」(いつしかラップ調に)
y「だよねー♪」
b「だよねー♪」
y「だよねー♪」
b「だよねー♪」
y「なんかイイ感じ♪」
b「だよねー♪」
・・・FADE OUT

■場転。リアル世界。
記者「あの・・・うちの雑誌を読まれたことは・・・?」
King「・・・燃やした」
記者「燃やした!! 燃やしちゃったんですか!?」
King「・・・」
記者「・・・燃やして、しまちゃって、ございました」
King「・・・」
記者「おぉぉ! すごい! さすがKing! 流石(さすが)でございます! 子育て雑誌相手でも容赦しないこの回答。この切れ味。これは期待できる!」(メモ書き込み)
マネ(Goodのサイン)
King「・・・」(無反応。脳内思案中)
記者「ではでは、次の質問ですー。えー、ご自分のご幼少時代はどんなでしたでしょうか?」

■場転。Kingの脳内。
y「幼少時代かー」
b「牛ですねー」
y「牛だねー」
b「実家が牧場農家でしたからねー私」
y「牛しかいないよねー」
b「鶏や犬や猫もいましたけどねー」
y「そういう意味じゃなくってさー」
b「すいません、分かってます」
y「牛だよねー」
b「牧場農家の長男ですからねー私」
y「10歳までは妹も生まれてなくて」
b「動物たちがいましたけどねー」
y「いつも手伝ってたよねー」
b「学校ではいじめられてましたけどねー」
y「家に帰ると、動物たちが僕のことを待っていて」
b「あの頃は良かったなー」
20100805s.jpg
y「でも・・・悲しいこともあった」
b(ドナドナを歌いだす)「あ~る~晴れた~」
y「(悲しく)僕が10歳のある日、僕が一番大切にしていた牝牛の・・・あぁ、一番大切にしていた牝牛の・・・」
b「(中略)子牛を・・・牝牛を乗せ~てゆく~」
y「牝牛の『牛魔王』が。『牛魔王』が・・・売られていっちゃった・・・それにしても、子供のネーミングセンスってすごいな。牛魔王は無いよな。メスだしな。・・・売られちゃった・・・大きな大きな、冷凍ハンバーグ工場に出荷されちゃった」
b「(中略)ドナドナド~ナ~ド~ナ~」
y「・・・軽トラに揺られて」
b「荷・・・軽トラ揺~れ~る~」
by(ハミングでドナドナのメロディーが続く)
・・・FADE OUT

■場転。リアル世界。
記者「あの・・・ご幼少の頃は・・・?」
King「・・・歌ってた」
記者「う、歌ってた!? 歌を歌っていらっしゃった!?」
King「・・・」
記者「おぉぉ! すごい! さすがKing! 流石(さすが)でございます! ちっちゃな頃から歌ってた! 幼少のころからミュージシャンとしての才能の片鱗が。CawDevilKingになるべくしてなったのですね」(メモ書き込み)
マネ(Goodのサイン)
King「・・・」(無反応。脳内思案中)
記者「ではでは、次の質問ですー。え~、昨今は『男性の育児休暇』を認める会社も増えつつある時代ですけれどもですね、え~、『子育てをする男性』についてKingはどう思われますか?」

■場転。Kingの脳内。
y「(すでにbに口を抑えられている)モンガ、モンガ―!(賛成賛成―!)」
b「くっ」
y「モンガガ!(賛成!)」
b「確かに私は今まさに楽しく子育てをしているけれども、それを言うわけにはいかないんです」
y「モンガ!(賛成―!)」
b「男親が積極的に子育てをすることは子供のために妻のために」
y「モンガ!(賛成―!)」
b「すばらしいことかもしれないけれど、いや、当然のこととおっしゃる方もいるかもしれないけれど」
y「モンガ!(賛成―!)」
b「それを言ってしまったらKingというキャラクターが全て崩壊してしまうんです! 崩れてしまうんです!」
y「・・・(暴れなくなる)」
b「(察知してゆるめる)KingがKingであるために。戦っているんです、私たちは。心の中で。目まぐるしく葛藤しているんです」
y「・・・」
b「ね。分かってくれましたよね」
y「・・・(ポツリと)賛成」
b「だまれ」
y「じゃぁ反対」
b「(ちょっと考えて)いや! 反対ではないんです!」
y「ややこしいなーもう」
b「大事なことです!」
y「じゃぁ反対の反対」
b「!」
y「の反対」
b「!」
z「(奥の隅っこで我関せず寝転んでいたが)もしもし」
y「やや! なんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし、の、あたくしの、妹の、桃子は、妹の桃子は元気でしょうか?」
201008kru.jpg
y「桃子のことは今関係、なくない!!(急変)」
b「え!?」
y「ぬがー(怒)」
b「あ、怒り出した」
y「桃子~!」
b「自家発電中」
y「あんな男は殺してしまえばいいんだ、桃子~!」
b「殺人誘導ですよ」
y「聞いてくれますか」
b「いやです」
y「聞いてくれますか」
b「いやです」
y「聞いてくれますか」
b「いやです」
y「なんでだよ~~(悲)」
b「妹の桃子が付き合ってる男との間に子供ができたから、妊娠したからって言って結婚を迫ったら男がビビッて逃げちゃって、しかも桃子の妊娠もただの勘違いだった、っていう話ですよね」
y「・・・うん」
b「・・・うん」
y「・・・うん」
b「・・・うん」

■場転。リアル世界。
記者「あの・・・『子育てする男性』について・・・?」
King「殺してしまえ」
記者「殺す!! 殺しちゃうんですか!?」
マネ(ハラハラ)
King「・・・」
記者「おぉぉ! すごい! つまりはKingは、子育てするような男は軟弱だというお考えなんでございますね! いやー、ここまで言い切っていただけると痛快です! 記事になりますです」(メモ書き込み)
マネ(Goodのサイン)
King「・・・」(無反応。脳内思案中)
記者「ではでは、最後の質問ですー。えー、その素顔だけでなく、あらゆるプロフィールが謎に包まれているKingさん。ズバリ! お子さんはいらっしゃるんですか?」

■場転。Kingの脳内。
b「いまーす! いまーす! いまーす!」
y「・・・」
b「可愛い可愛い愛娘(まなむすめ)がいまーす!」
y「・・・」
b「生まれたばっかりでーす!」
y「おい」
b「え?」
y「おい」
b「可愛いよ?」
y「知っっってるよ!」
b「あ、そう♪」
y「あのさ・・・」
z「もしもし」
by「早!!」
y「なんだいなんだいもう一人の僕」
b「なんですか、もう一人の私」
z「あたくし思いますに、キャラクター逆じゃないですか?」
y「それ今僕が言おうとしてたことだけど!」
b「まぁまぁ落ち着いて」
y「けどさ!」
b「けどじゃない」
y「でも!」
b「でもじゃない」
y「ちゃうねん!」
b「違わない」
y「いやな!」
b「いやじゃない」
y「なんで???」
b「私もね、分かっているんですよ、Kingとして言っちゃいけないってことは」
y「事務所に止められてるんだからねーだ!(へへーん!)」
b「そう、事務所にね。でもね、私もね、本当は言いたくて言いたくて仕方がないんです。自分の子供のことを、その存在を、世界に誇りたい。『娘がいる』と大声で言いたい!! 少なくとも『いる』のに『いない』なんて言えません!」
y「じゃぁ、言おう! 言っちゃおう!」
b「(冷たく)事務所に止められてますから」
y「結局どっちなんだよ!?」
b「悩んでるんです!」
y「心のままに生きるんだよ!」
b「理性を失ったら人間じゃない!」
y「事務所がなんだ!」
b「雇い主です!」
y「もっともなことを言うな!」
b「お給料くれるヒトです!」
y「お金がなんだ! 自由のほうが大事だ!」
・・・FADE OUT
201008kdrt.jpg
■リアル世界
記者「あの、ズバリ! ズバリ! ・・・あの・・・お子さんは?」
King「事務所に・・・いる・・・」
記者「え!?」
マネ「え!?」
記者「いる!? お子さんいらっしゃるんですね!?」
マネ「いないいないいない!」
記者「事務所に遊びに来てるんですか?」
マネ「来てない来てない来てない!」
201008pnk01.jpg
記者「どういうことですか!? あ、もしかして二世タレント!」
マネ「えぇ!?」
記者「あ! そうなんですね!」
マネ「話飛躍(ひやく)しすぎだからさ、落ち着こうよ」
記者「特ダネだーー! ありがとうございますー。失礼しますですー」(去る)
マネ「ちょっとー!」(追う)
King「・・・(ちょっと嬉しげ)」

■オワリ。

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